取材レポート

関西大学初等部

ここでしか出来ない最高の教育を。その思いが生んだSTEAM教育

国を挙げて推進しているSTEAM教育※。経済産業省が運営するウェブサイト『未来の教室』内の『STEAMライブラリー』には、様々な企業や学校が作成したSTEAM教育の指導案が公開されています。
関西大学初等部は、『STEAMライブラリー』に小学校として指導案を公開している唯一の学校です。同校は、先進的な取り組みが認められ、日本で初めて『Apple Distinguished School(アップル認定校)』に選ばれた学校でもあります。同校が進める「ここでしか出来ない最高の教育」について、校長の長戸基先生にお話をお伺いしました。

※STEAM教育とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術・教養)、Math(数学)の頭文字を取った造語で、これらの分野を横断した学びのこと

関西大学初等部校長 長戸基先生のお話
長戸基校長先生

長戸基校長先生

関西大学初等部校長 長戸基先生のお話

経産省『STEAMライブラリー』に、全国の小学校で唯一選ばれた指導案

開校以来、思考力を育成する取り組みを展開してきた関西大学初等部。その取り組みを生かし、制作したSTEAM教育の指導案『STEAM化ごんぎつね』が経済産業省の『STEAMライブラリー』に小学校として初めて採択されました。『STEAM化ごんぎつね』について、長戸校長先生はこう述べます。

「『STEAM化ごんぎつね』は、有名な『ごんぎつね』を単純にお話として読むのではなく、様々な視点から解明していこうという取り組みです。授業に入る時に、子ども達には、物語を読んで『これって本当かな?』と思う部分を課題として設定し、調べてみようと伝えました。『中山様のお城はどこにあるのか』『最後に、火縄銃の筒口から青い煙が出ているという描写があるけれど、本当に青い煙があるのか?』『そもそも、この物語は本当なのか』など、子ども達は自分の疑問を起点に課題をそれぞれで設定。授業は、その課題に沿って調べ学習を行い、自分なりの仮説を立て、それをスライドにまとめ、発表を行うという流れで進めました。この取り組みで大切にしたのは、子ども達が主体的に学びを深めていくことです。そのために、我々教員が課題を与えるのではなく、子ども達が追究したいと思えるような素材を揃えることに注力しました」。

物語を国語という教科の中だけで捉えると、筆者がどういうことを意図して書いているのだろうという、文章の読み取り一辺倒になってしまいがちです。しかし、物語を素材として捉え、自分がそこから得た疑問を、教科を横断した様々な視点から追究することで、子ども達は主体的に楽しみながら学びを深めていくことができると長戸校長先生は言います。実際、この『STEAM化ごんぎつね』を学んだ6年生からは「調べていく内にどんどん疑問が出てきて、ワクワクした」という声が多く聞かれたそうです。
また、調べ学習をしたことや、他人の発表を聞いたことで、『もしかしたら、実はごんはこういう風に思っていたのかもしれないな』など、新しい視点から物語を読めるようになったと話す子も多いと長戸校長先生は述べます。

この授業を通して育まれる力について、長戸校長先生は「子ども達が設定した課題に明確な答えがあるわけではありません。この授業を通して、“最初から存在する答えを見つけに行く”のではなく、“何が正解か分からないけれど、それに近づいていくためのプロセスを探る”という、これからの時代にとって必要とされる力を育んでいきたい」と意欲を見せます。

※『STEAM化ごんぎつね』の詳細はこちらをご覧ください
https://www.steam-library.go.jp/content/137


最先端のSTEAM教育を展開する、新たなマルチメディアルームが誕生

関西大学初等部のSTEAM教育への熱意は、2021年度のコンピュータルームの改修にも表れています。
「本校には、据え置き型のパソコンを設置したコンピュータルームがありました。しかし、2016年に1人1台端末制を導入し、またフロアごとにノートパソコンも備えているため、あまり出番がありませんでした。そこで、すべてを取り払い、自由な発想で使える空間へと改修しました」(長戸校長先生)。

この新しいマルチメディアルームは「子ども達が寝そべりながら色々な活動している姿が、よく海外の学校の教育風景として取り上げられていますが、そのような風景をイメージして作りました」と長戸先生が話す通り、机やいすがなく、子ども達はカーペット敷きのフロアに直接座って様々な学習に取り組める仕様となっています。

また、色々な規模でプレゼンテーションができる仕様となっているのも、この部屋の特徴のひとつ。教室の前後に備えられたスクリーンのほか、左右の壁はホワイトボード仕様となっており、クラス全員を対象にした講演型の発表はもちろん、グループごとの小規模な発表を一斉に行うことができます。加えて、階段状になったフロアには、段ごとに、様々なICT機器を追加で使用できるよう複数のコンセントを備えるなど、より充実した発表を行うための設備も整えられています。

「今回の改修で、多目的に使える部屋に生まれ変わり、子どもたちの創造性をより引き出すことのできる学習空間になったのではないかと感じています。様々な教科で使っていますが、今後は特にSTEAM教育ならではの使い方を模索し、子ども達の思考力の育みに活用していきます」(長戸校長先生)


今出来る最高の教育を模索し続けたコロナ禍の学校生活

関西大学初等部では、2020年度の新型コロナウィルス対策として実施された一斉休校の際も、4月の始業式後すぐにオンライン授業を開始しました。新型コロナウィルス感染症に翻弄されたこの2年間を振り返って、長戸校長先生は「2020年度は学校に来ることが出来ないのであれば、ICTを使って出来る限りの学びを届けることを大切に進めました。一方、2021年度は、いつでも全面オンライン授業を行う体制は整えつつ、学校に来ることが出来るのであれば、とにかく対面授業を続けようと進めてきました」と話します。

対面授業を重視した2021年度は、対面とオンラインのハイブリッド形式の授業が日常的に行われたと長戸校長先生は続けます。
「例えば、算数の担当教員が濃厚接触者になり、学校に来られなかった時は、Zoomを使って教員が自宅から授業を行い、それを教室内にいる他教員がサポートする形で授業を進めました。この時、教員がオンラインであると同時に、同じく濃厚接触者となってお休みをしている子どももオンラインで授業に参加しているということもよくありました」。

教員がお休みの場合、代わりの教員が授業を行う小学校が一般的ですが、同校では“いつもの教員がいつもの授業を行う”ことにこだわったそうです。その理由について、長戸校長先生は、以下のように熱く語ります。

「授業とは教員と子ども達との関係で成り立ちます。『この子はこんな風な所で躓きやすい』『この子はこんな意見を持っているだろう』という認識を教員はそれまでの授業で得ています。その認識のもとで授業を進めていますので、その日教える単元が決まっているからといって、他の教員が行うと学びの継続性が途絶えてしまいます。当然ですが、代わりはあくまで代わりです。枠としては同じ『一時間』であっても、一貫して同じ教員が教えている方が子ども達にとって良い学びをもたらすのです」。

今の状況で出来る最高の教育を子ども達に届けようをスローガンに掲げる同校。他の授業の在り方にも、その意識が垣間見えます。
「鍵盤ハーモニカの演奏や合唱など、飛沫感染の危険性がある教育は室内では行わないようにと文部科学省から通達が出ています。そこで、音楽の授業の場を音楽室から外のテラスに移し、子ども達には演奏や合唱を思いっきり楽しんでもらいました。体育でも、小中高が使う広い体育館を1クラスで使うことで感染の危険性を抑えながら活動しました。もちろん水泳の授業も、対策を取った上で行っています。コロナ禍でも、『止めておこう』ではなく『制限のある中でも何か出来ないか』と考え、教育を進めています」(長戸校長先生)


行事を通し、人間としてバランスのよい成長を目指す

関西大学初等部では、学年を縦割りにした活動も2021年度は新たな形で復活させました。

「今だからこそできる縦割り活動をと考え、11月に全学年で、日帰りで南紀白浜アドベンチャーワールドに行きました。行きは特急『くろしお号』を貸し切って学年ごとに移動し、現地では各学年約2名ずつで15人ほどの班を作り、班ごとに園内を回りました。 6年生が中心になって計画を立ててくれたのですが、現地では、低学年の子の面倒をよく見て、リードしてくれる高学年の姿がそこかしこに見られました」(長戸校長先生)。

縦割り遠足は、子ども達にも保護者にもとても好評だったそうです。この行事を振り返って、長戸校長先生は「今回の遠足の目的は、“縦割りの楽しさ”を楽しむです。帰ってきてから、オンラインで現地とつないで飼育員の方からレクチャーを受けるなどの学習も行いましたが、現地では勉強的なことは一切行わず、子ども達にはただ楽しんでもらいました。本校は、勉強だけが大切であると考えてはいません。様々な体験を通して、人間としてトータルにバランスよく成長すること。それを大事にしています」と力強く話します。


まとめ

関西大学初等部は、ICT環境の充実度とそれらを活用した先進的な取り組みが認められ、日本で小学校として初の『Apple Distinguished School(ADS)』の認定を受けました。2022年現在でも、『ADS』の認定を受けた小学校は全国で3校しかありません。
長戸校長先生は、「『ADS』であることの利点は、世界の様々な学校で展開されている最先端教育の情報が入ってくること。それらの情報を糧に、本校でしかできない日本で一番の教育を作っていきます」と話されました。 経済産業省の『STEAMライブラリー』で、小学校で唯一採択されたのも、常にアップデートを怠らない同校の教育が認められた当然の結果なのかもしれません。日本で最先端の教育が、子ども達をどのように導いていくのか。同校で6年間を過ごすことのできる子ども達の将来が楽しみでなりません。

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